大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(ネ)93号 判決 1961年11月24日

控訴人 羽田克治

被控訴人 荒井保明

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金一三万円及びこれに対する昭和三二年八月一七日から右完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の関係は、控訴人において、催告による時効の中断が認められないとしても、被控訴人は、控訴人が昭和三五年三月一五日本件手形金の支払を求めた際、本件手形金債務を承認したから時効は中断された。控訴人が本件手形の振出日を補充したのが昭和三五年一二月七日であることは認めると述べ、当審における当事者双方本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立は不知と述べ、被控訴代理人において、被控訴人が本件手形金債務を承認したとの控訴人の主張事実は否認する。仮りに承認したとしても、本件手形の振出日が補充されたのは昭和三五年一二月七日であるところ、白地手形は後日手形要件が補充されるまでは未完成手形であり、補充かあつて、はじめて完全な手形として手形債務が発生するものであるから承認当時本件手形債務は発生していないから承認の効力は生じないと述べ、乙第一号証を提出し、当審における被控訴人本人尋問の結果を援用したほか、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

被控訴人が訴外権正源太郎に宛て、昭和三二年五月二一日頃振出日を白地とし、振出地支払地共に富士吉田市、支払場所大月信用金庫吉田支店、金額十三万円、満期同年八月十六日と記載した約束手形一通を振出し、控訴人が右受取人から右手形の裏書譲渡を受け、支払期日に支払のため呈示したところ拒絶されたことは当事者間に争がなく、本件手形金請求のため本件支払命令申請がなされたのが昭和三十五年十一月十五日であることは記録上明らかであるから本件手形の満期以後時効期間たる三年を経過している。

控訴人は本件手形債務の時効は催告により中断されたと主張するが、仮りに催告があつたとしても催告後所定の期間内に時効中断の効力を生ずべき民法第一五三条所定の手続をとつたことにつき何らの主張立証がないから中断の効力は発生するに由ないものである。従つて控訴人の催告による時効中断の主張は理由がない。

次に控訴人の債務の承認による時効中断の主張についてみるに、控訴人が昭和三五年三月頃被控訴人に対し本件手形金の請求をしたことは当審における当事者双方本人尋問の各結果によつて認められるが、被控訴人において右債務を承認したとの点については、この点に関する当審における控訴人本人尋問の結果は当審における被控訴人本人尋問の結果と対比して信用し難く、他にこれを認め得る証拠はないのみならず、本件手形は振出日を白地とする白地手形であり、控訴人が手形要件である振出日を昭和三二年五月二一日と補充したのが昭和三五年一二月七日であることは当事者間争のないところ、白地手形は後日手形要件が補充されてはじめて完全な手形となるものであり、その補充があるまでは未完成手形に過ぎない。それ故未完成の手形に対し債務者からする債務の承認を得てもその後に完成された手形による手形債務について時効中断の効力が生じ、手形債務が存続するというような効力を生じえないものというべく、控訴人において債務の承認があつたと主張する昭和三五年三月当時本件手形が振出日の補充のない白地手形であつたことは明らかであるから、仮りに被控訴人において承認したとしてもその効力を生じない。従つて債務承認による時効中断の主張も採用できない。

そうすると、本件手形金債務は満期の昭和三二年八月一六日から三年を経過した昭和三五年八月十六日の経過とともに時效により消滅したものというべく、被控訴人の時効の抗弁は理由がある。(本件手形は白地手形であるから、補充のとき手形債務は成立するとしても、書面行為の性質上、債務の内容は記載文言によつて定まり、時效は記載の満期から進行する。)

よつて、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、これと同旨の原判決は正当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 薄根正男 元岡道雄 小池二八)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例